Sweet duet

 「・・・いしょ・・・っと!」
重みを増したその身体をベッドに担ぎ上げ横にすると、不二はひとつため息をつき、自分もその傍らに腰を下ろした。
・・・ベッドに運ばれた事にも気づいていない様子で年下の恋人はすっかり寝入っており、あどけない寝顔をさらしている。
 “だから無理だ、って言ったのにな?”
自分の予想が当たってしまったことに苦笑しながら,不二はその罪のない顔を見下ろす。
急遽家族が出かけてしまうことになり、ひとりで留守番する羽目になった不二はどうせひとりになるなら・・・と恋人のリョーマを誘った。
そんな突然の自分の誘いを嬉しそうに受けた彼と一緒に帰り、食事し、風呂に入り、自分の部屋でふたり仲良く寛いでいたまではよかったのだが・・・
 “これ、聴けるんすか?”
自分がサボテンに水をやる間、落ち着かないように辺りを見回していた彼が目に留めたのは、昨日、針の調子を見るためにかけたレコードジャケット。
プレーヤーの上に置きっぱなしにしていたそれに彼は興味をそそられたらしく、もの珍しそうに触っていて。
 “聴いてみる・・・って君にはつまらないかも?”
 CDやMDしか知らないだろう彼にはレコードは珍しいだろうし、聴かせてやろうかとも思ったのだが、内容が内容だけに不二は少々躊躇する
 “君、クラシック聴くの?”
 “腰据えては聴いた事ないすね。”
予想したとおりの答えに苦笑すれば、大きな瞳が自分を伺うように見る。
 “・・・あんたはこういうのよく聴くの?”
 “まぁ、嫌いじゃないからね。”
家族の影響で小さい頃からクラシックやジャズは聴いていたし、現に彼が手にしているジャケットはお気に入りの一枚だ。
 “じゃ、聴く。”
 “え?”
 “あんたがどんなの聴いてるか聴いてみたい。”
 “・・・きっと君、寝ちゃうんじゃない??”
 “そんなの聴いてみなきゃわからないっすよ。”
これもまた何となく予想できる事態を口にしてやんわりと釘をさしたが、むっとしたような顔をしたところを見ると、自分のその言葉にどうやら彼はムキになったようだ。
そんなリョーマに半ば押し切られるようにしてそのレコードをかけたのだが、案の定、曲の半分も行かないうちにその頭はゆらゆらと揺れ始め、その数分後、いとも安らかな寝息が聞こえ始めて今に至っている。
 僕の聴いている音楽を聴いてみたい・・・と言ってくれたのは嬉しいけどさ・・・
眠る彼の脇に身体を横たえ、不二はふう、とため息をつく。
 ・・・せっかく久しぶりで二人きりになれたのにこれはないんじゃない?
少々拗ねながら不二はリョーマの髪を指先で弄ぶ。
前髪を軽く引っ張り、その頬をつつけば、彼は軽く呻り、片腕を柔らかく自分の腰に回してくる。
“カルピンとでも思ってるのかな?”
緩やかに抱きしめる手の動きに不二はちょっと笑うと、ちろり、と彼の頬を舌で舐める。
 「・・・ん・・・」
くすぐったそうに身を捩る彼の反応がやけに可愛らしく、不二はもう一度軽く彼の頬を舐めると軽く唇を落とす。
 ちゅっ。
・・・あ・・・
戯れに触れた唇から出た濡れた音に不二はどきり、とする。
 ふっ・・・と久しぶりに触れた肌の温もりと彼の匂いが急にリアルに迫ってきて、恋人としての欲望を意識してしまった不二は慌てて彼から離れようとする。
・・・が、ゆるく巻きついていた腕は自分のそんな動きに反発するかのように力を増し、自分の側に向かって寝返りを打った彼は、もう一方の片腕を加えて抱き枕のように自分の身体をしっかりと抱きしめてくる。
 「ちょ・・・こら!」
完全に起き上がる自由を奪われてしまい、それでも何とかその束縛から逃れようともがくがその腕の力はなかなか抜けない。
 ・・・もう・・・
仕方なくじりじりと身体を反転させ、なんとか彼の身体に背を向けた不二は深々とため息をついた。
・・・こんな時、男の身体は厄介だ。
体に現れた隠しようもない欲求に、不二はうらめしそうな視線を背後に送る。
 “寝込み、襲うよ?”
しばしの間、何も知らぬ気にすやすやと寝入っている恋人をしばし見つめていたが、そのあまりに罪のない顔に深いため息をつくと、不二は決まり悪そうにそっと自分のそれへと手を触れた。
 「・・・ん・・・」
少しの刺激にも敏感になっているのか、そっと触れただけで声が漏れる。
 ・・・やはり静まりそうにない。
 もっとも注意を逸らそうにも、その対象が自分のすぐ傍にいるこの状況では、何もしないで収まりがつくことは考えられないのだが。
 “ホントにもう・・・”
頭の端でこんな状況に追い込まれたことを怒りつつも、火のつきかけている身体はどうしようもなく、不二は指を滑らせ始める。
 「・・・く・・・」
・・・彼を背中に背負っているせいで、手の自由はあまりきかない。
あまり派手に動けば彼を起こしてしまう恐れもある。
その不自由な動きと心理的な制限がかえって欲求を煽り、焦りつくような感覚の中で、次第に息は弾んでいく。
 「・・・ん・・・」
漏れそうになる声を、唇を噛むことで耐え、手の動きを早くしていく。
しかし、頭の端に残る恥じらいと、いつもより自由の効かない動きになかなか達する事ができない。
 「・・・越前・・・」
欲求ばかりが募っていき、たまらなくなった不二は、すがるように彼の名前を呟く。
 「・・・あっ!」
・・・と自分の身体にまつわりついていた彼の腕がするりと生き物のように動き、自分のパジャマを割って肌に触れてきたのに不二は驚きの声を上げた。
 「え、越前っっ!」
片方は胸を、もう一方は欲望の証に触れている自分の手を握り、しっかりと自分を絡め取ってしまったリョーマの手の動きに不二は焦って背後を振り返る。
 「き、君、いつから起きて・・・」
 「ついさっき。」
最後まで黙って見てようかと思ったけど、やっぱ我慢できなくて・・・そう囁く言葉が首すじにかかり、不二はびくりと身体を震わせる。
 「止めないで続けてよ。」
 「そ・・・んな・・・」
 「じゃ、オレがしてもいい?」
 「え?・・・!あ・・・あ・・・うっ!!」
不二の耳元でそう囁きかけると、リョーマは不二の手ごと濡れているそれをやんわりと握り、自分の言葉に慌てたようにもがく身体をしっかりと抱きしめると、ゆっくりとその手を動かし始めた。
 「何、考えてたんすか?」
 「な・・・何・・って・・・?」
 「さっきあんたオレの名前呼んだでしょ?」

 「あ・・・れは・・・」

「もしかしてオレとの事思い出してオカズにしてくれてたの?」
ゆるゆるとその手を動かしつつ、リョーマが笑みを含んだ声で尋ねてくる。
 「・・・・・」
 「ねぇ・・・」
 「あ!」
不意にきゅ、と胸の尖りを摘まれ、不二は思わず高い声を上げる。
 「ねぇ・・・教えてよ・・・」
耳元に響く少し掠れた甘い声。
「・・・君を、襲おうかと・・・思ってたよ。」
そんな事は聞かなくてもわかっているくせに・・・そう思いつつ、素直にそう言うのはいかにも悔しくて、不二は先ほど思った事を口にする。
 「君の寝顔・・・が、あんまり・・・可愛いから。」
そんな自分の答えに驚いたのか、自分を嬲る手が一瞬止まる。 
 「・・・何で襲わなかったんすか?」
 「・・・」
 「ねぇ・・・」
その答えをせがむように耳たぶを唇で挟まれ、軽く歯を立てられる。
 「・・・あんまり君が可愛かったから・・・」
くすぐったさとぞくぞくと背筋を這い上る快感にたまらず身を捩りながら、不二はそう答える。
 「こんな可愛いコに、悪い事仕掛けちゃダメだ・・・ってそう思ったんだ。」
からかうようにそう言って笑い、不二は背後のリョーマを斜め見る。
 「・・・オレは逆っすね。」
 「・・・え・・・」
自分の今の言葉に彼は子供のように膨れるだろう、そう思っていた不二は意外にもすぐに返ってきたその言葉と、小さく笑っている彼の顔に怪訝そうに眉を寄せる。
「可愛いコは、がぶっと食べたい。ましてあんたなら。」
 「!」
すっと彼の手が自分から離れたのを感じた次の瞬間、ぐいと真正面から彼に押さえ込まれ不二は目をしばたいた。
 「オレはあんたに触れられるならどんな隙にでも付け入るよ。」
 「え、越前・・・」
自分を組み敷く彼からは先ほどの可愛らしさは感じられず、見下ろしてくるその眼差しは自分の全てを絡み取ってしまうかのように力強く、逆らいがたく、肩を押さえつける彼の腕の力も相まって、不二はまるで自分が彼に捉えられた獲物のような錯覚を覚える。
 「も・・・しかしてさっきのって寝たふり・・・?」
 「・・・さぁ?」
 「・・・騙すなんてずるくない?」
「言ったでしょ?どんな隙にもつけ入るって。」
自分の問いにとぼける彼を不二は悔しそうに睨み上げるが、リョーマはそんな視線を涼しい顔で受け流して。
 「それより続きしようよ?」
 「・・・あ!」
そのまま素早く下半身の衣服を奪われ、ひるんだ隙にいたずらなリョーマの手に興奮の兆しを見せたままのそれを捉えられ、不二は上ずった声を上げる。
 「え・・・ちぜ!!」
 「隙を見せるあんたが悪い。」 
 「そん・・・なっ・・・ぅ・・・あ!ああっ!!」
オレの事いつまでも子供扱いするからっすよ、そう言って不敵に笑うリョーマに何か言い返してやろうと開きかけた口だったが、いきなり激しく攻められ始め、言葉の代わりに濡れた声が大きく漏れる。
 「いい声っすね?先輩??」
 「・・・こ・・・の・・・っ!・・・ああっっ!!」
 「・・・って事で、いただきます。」
オレもたまってるんで覚悟してもらいますよ? そんなリョーマの声をぼんやりと遠くに聞きながら、不二は自分の甘い敗北を感じていた・・・

 

 

 

・・・おまけ・・・ 

 「ねぇ?」
 「・・・ん?」
 「さっき君が言った事だけど。」
 「・・・さっきの・・・事・・・って?」
激しい疲労にさいなまれ、眠りに落ちようとするところを揺り動かされ、リョーマは回らない口調でようやっと聞き返す。
 「君って手、早いんだ?」
 「・・・手が・・・早い・・・?」
 「可愛いコなら君、がぶっと食べちゃうんでしょ?」
 「・・・え・・・?」
 「さっき言ってたよね?覚えてないとは言わせないよ。」
自分の発言を覚えている、いないの以前に現在の意識が朦朧としているので、リョーマは不二の言葉を聞いているのがやっとで。
 「どんなコがタイプなの?」 
 「・・・・・」
 「ほら、寝ちゃダメ!ちゃんと答えるの!!」 
眠りに落ちようとするところを揺すぶられ、現実に強引に引き戻される。
「・・・勘弁してよ・・・」
眠りたいのに眠らせてもらえない・・・思ってもみなかった不二のその攻撃にリョーマはたまらず情けない声を上げた・・・・・・かくしてなかなか寝かせてもらえないまま、質問攻めにあったリョーマは、眠さのあまり無意識のうちに本音をしゃべる羽目となり、そして翌日、何を話したか覚えていないことすらも不二の手札にされ、しばらくいじめられる事になったのだった・・・

 

                                どっとはらい(笑)